その男のことを考えると想いと後悔で胸が苦しい、そんな感情が溢れてきた。
「……くっ」
父が亡くなった時に泣きもしなかったくせに
我ながら険しい表情で涙をもらしてしまった。それがまた辛く、情けなかった。涙をこらえるせいで顔がゆがんでいく、これ以上こらえると嗚咽まで上げてしまうかもしれない…
そんな時だった。
ぽこんっ
「っ?」
大きなまるい腹が一瞬盛り上がる。
仄暗い気持ちになった母を見透かしたのか、腹の子は元気に内壁を蹴った。
もう一度。
ぼこっ!
「んく…っ」
目が覚めるように、ぴくりとアイクは反応した、いまの蹴りは随分強かった。
なおも元気に蹴る、何事かと落ち着かせてやるように腹をさすってやると
今度は手の動きに合わせて内壁を優しくなぞりはじめた、アイクは驚いた、普段蹴りはしても今までこんなことはなかったからだ。
思いのほか腹の子は随分成長していたことを知り、自分もなぞりかえしてやると軽く蹴った。
しばらくして大人しくなる。
「よしよし、いい子だな…」
一息つくアイク
言葉をかわさない、それだけの行為に暖かくなるような不思議な感覚が生まれる。
「そうだな…俺らしくない
これから産まれてくるお前を育てていかなきゃならないんだからな……」
わが子のささやかな気づかいを推し量り、母親は硬い表情に少しだけ笑みを足した。
「さてと、さっきの蹴り具合だと男の子か?…そろそろ名前考えないとな、
ミストにも相談してみようか」